クラウンが採用している、トヨタの「いなしサスペンション」とは?

トヨタの「いなしサスペンション」という技術は、高級車に求められる上質な乗り心地と、優れた操縦安定性を高いレベルで両立させる為の重要な役割を果たしています。
◆「いなしサスペンション」
車体はできるだけ高い剛性を保ち、捩じれたりたわんではいけないというのが、自動車メーカーの基本的な考え方になる。トヨタはたわんではいけないという弱点を、たわんでしまうならそれを巧みに活用して逆に強みにしたのが、「いなしサスペンション」である。電子制御が当たり前になっている現代において、こういったコンベンショナルな技術が出てくるのは、エンジニアの方々の、日頃ごろの研究の成果と言えるでしょう。
これまでは、サスペンションアームに加わる入力は、ブッシュによって吸収されていたが、乗り心地を確保しようとブッシュを柔らかくしすぎると、操縦安定性が損なわれるという問題が発生し、両立させるのが困難であった。そこで、トヨタは特定の入力を、たわんで逃がす「いなし」効果をもつリンクを開発。2012年にモデルチェンジを行ったクラウンに採用。
クラウンは日本国内で、販売されている車の中でも乗り心地など、ユーザーから高いレベルが期待される。その期待に応える為、クラウンに「いなしサスペンション」と呼ばれる構造を織り込んだマルチリンク式リアサスペンションを採用。このサスペンションは、路面から伝わる振動を受け止めるのではなく、上手にいなし、しなやかな動きを実現する。
クラウンのマルチリンク式リアサスペンションは、2本のアッパーアームと、2本のロアーアーム、トーコントロールアームの計5本で構成されてる。「いなしサスペンション」では、そのアッパーアームを開断面形状とした。開断面形状にした事で、サスペンションアームは曲げ剛性をそのままに、ねじり剛性が低下。ねじり剛性が低下する事で、ストローク時に突っ張る役目をしていたリンクがわずかに動くようになり、サスペンションはストロークしやすくなり、車体へ伝わる振動を低減できる。
フロントには、ダブルウィッシュボ-ンサスペンションを採用。こちらでは、タイロッドの剛性を適度に低減する為、タイロッドエンドにオフセット形状を採用している。これにより、旋回時、タイヤ接地点に横力が加わると、前輪タイヤはトーアウト方向(安定方向)へ向きやすくなる。一方、リアサスペンションは、トーコントロールアームにオフセット形状を採用し、旋回時の横力が加わった時に、後輪タイヤをトーイン方向(安定方向)へと、向きやすくなるように設計がなされている。このようにトー変化特性を適正化し、旋回時のタイヤグリップ力を強めて、旋回時の安定した車両性能を実現している。
※サスペンション(懸架装置)とは、車両の走行時に路面の凹凸を車体に伝えない様にする緩衝装置としての機能と、車輪、車軸の位置決め、車輪を路面に対して押さえつける機能を持つ装置である。乗り心地や操縦安定性などを向上させるシステム。
※マルチリンク式サスペンションとは、サスペンション形式の一つで、基本的な上下に並んだアームによるダブルウィッシュボーン式サスペンション(独立懸架方式の一種)のリンク構造に加えて、より多くのリンクによりジオメトリ変化を制御する構造である。
※ブッシュとは、軸や筒状の部材などにはめ込み、隙間を埋めたり緩衝に用いる円筒形・ドーナツ形をした機構部品のこと。
※タイロッドは、ステアリング・リンケージの一部で、ステアリング・ギヤとタイヤの中間に取付けられ、ハンドルの操作力をタイヤに伝える部品。タイロッドの意味は繋ぎ材となる。
※トー変化特性
・トウINは、あいまいさが少なくて直進性が高い。 路面の状況がハンドルを通して感じられ、ハンドル操作に対して車体の応答性が高い。(カーブの後ハンドルを離して、自然に直進に戻る力が強い)
・トウOUTは、手応えがあいまいで直進性は非常に悪い。車体への負担も大きく、タイヤがもっとも片磨耗しやすい。操作に対する応答性も最も鈍い。(FF車では、走行中にトウゼロになるよう、少しだけOUTにしておく手法もある。)
・トウゼロは、手応えがあいまいで直進性はやや劣る。タイヤの磨耗が最も少なく、車体に対してさまざまな負担が少ない。操作に対する応答性はやや鈍い。